
私は阿蘇で牛乳を生産している酪農家です。私の家には乳牛(ホルスタイン)が230頭、肉牛(黒毛和牛)が50頭くらいいます。230頭の乳牛の内訳は経産牛(母牛)が140頭、育成牛(お姉さん牛)が60頭、仔牛が30頭です。毎日搾乳をしている牛は100〜120頭ほどです。
さて、今回は「どうやったら牛は牛乳を出すようになるのか」について考えてみましょう。私の家に小中学生が体験に来たときにも必ず質問するのですが、意外と答えられない子供が多いです。乳牛という動物は大人になったらミルクが勝手に出てくると勘 違いしている子供たちが結構います。答えは簡単、「子供(仔牛)を産んだから」です。母牛は仔牛を産み、その仔牛を育てるために牛乳を出すのです。つまり、妊娠をさせ出産させなければ牛は牛乳を出してくれません。ところが、私の家にはオスの乳牛は一匹もいません。もちろん仔牛はオスもメスも(阿蘇ではこってとおなめと言う)産まれてくるのですが、オス牛は仔牛の時にすべて市場へもって行きます。それではどうやって子供を作るかというと実はすべて人間が行なうのです。これを「人工授精」と言い、酪農家の間では通称「種付け」といいます。細いストローの中には乳牛の精液が入っています。普段約−200度の液体窒素の中で冷凍保存されていて、牛が人工授精できる状態のとき(発情のとき)、これを38度(牛の体温)で溶かして子宮の中へ入れてやるのです。その時は私が牛のお尻の穴(肛門)に手を入れて、お尻の穴の中から子宮をつかみその中にストローを差し込み、注入します。知らない人にはかなりショッキングなことらしく、あまり皆さんたちに見せることはありませんが、私は毎日あの牛この牛のお尻の穴に手を突っ込んでいるのです。
| |
 |
 |
| |
細いストロー |
冷凍保存 |
最初の種付けは生後12〜14ヶ月(育成牛)で行ないます。妊娠期間は人間とほとんど同じで約10ヶ月です。そして約2歳になったころに初めての分娩(通常1頭)を行い、分娩したその日から搾乳が始まります。分娩してから2〜4ヶ月目の時にはもう次の種付けを行い、妊娠させます。そして、妊娠した状態で前に産んだ仔牛のためにミルクを出すというのを数ヶ月続け、次の分娩の約2ヶ月前になるとある日突然搾乳をやめます。これを乾乳といい分娩前2ヶ月間はまったくミルクを絞りません。もちろん餌の種類も変えてお産に備えてリフレッシュするのです。そしてまた分娩して搾乳・種付け…と毎年繰り返していきます。
すべての牛を妊娠させること、安全に分娩を迎えて母牛も仔牛も元気であること。この二つのことを確実に行わないと牛は牛乳を出してくれません。皆さんが飲んでいる牛乳は仔牛が大きく元気に育つように母牛が体を張って出した母乳のおすそ分けなのです。ありがとう私の牛たち
|